ごあいさつ
院長コラム第5回 筋肉管理は健康管理の要
院長コラム第5回
筋肉管理は健康管理の要
2017年2月24日
人間の体は日々変化し続けていて、その変化にはプラスの変化とマイナスの変化があります。筋肉に関していえば、筋肉量が増える、筋力が強くなるがプラスの変化で、筋肉量が減る、筋力が落ちるがマイナスの変化です。人間はある年齢を境に、マイナスの変化を受けやすい身体に変わっていきます。これ自体は自然の摂理で、やむを得ないことなのです。しかし、そのスピードを緩めることは可能です。すなわち、加齢は止められなくても、老化のスピードは緩められるのです。 次項に、筋肉が衰えると何がおこるかを簡単に述べました。このような状態にならないためには筋肉トレーニングを続ける必要があります。筋肉トレーニングの目的は、ボディビルダーのようなムキムキの身体を作ることではなく、身体全体の機能を保ち、死ぬまで元気に生きていけることです。ピンピンコロリの人生を目指して、みんなで筋肉トレーニングを始めたいものです。 筋肉が衰えると何がおこるのか?
まずは筋肉が衰えるとどのようなことがおこるか、列挙してみます。 ① 疲れやすい 筋肉の力が100ある人(Aさん)と70しかない人(Bさん)を比較してみましょう。この二人が60の疲労をする仕事をしたとします。Aさんはまだ40の余力があり、楽々こなしますが、Bさんは10の余力しかないので、非常に疲れた状態になります。つまり、同じことをやっても、筋肉の力が違うとこんなに疲れやすさが違うのです。
② 血流が悪くなる 筋肉が収縮することが、静脈血やリンパ液を流す原動力となります。特に下半身の静脈血やリンパ液は、重力に逆らって上に登っていかなくてはならないので、筋肉の収縮の力を借りなければ、心臓まで戻っていけません。したがって、筋肉が衰えると静脈の血流が滞り、冷えやすい体質になってしまいます。また、リンパ液の滞りは、むくみをきたしやすく、セルライトを作る原因にもなります
③ 基礎代謝が落ちる 基礎代謝とは、安静時に全身が消費するエネルギー量のことで、このエネルギーを使って、体温を維持するための熱を作っています。このエネルギーは、主に筋肉で作られています。筋肉は体内で最も多い組織ですから、衰えると基礎代謝が落ちてしまいます。その結果、太りやすく、やせにくい体質になってしまいます。
④ 身体を支える力が弱くなる 筋肉が衰えることで、身体を支える力が弱くなり、バランスも悪くなってきます。その結果、姿勢が悪い状態になったり、膝や腰が痛いという症状が出てきたりします。また、身体がイメージ通りに動いてくれないため、転倒など、怪我をしやすくなります。
⑤ 全身の疾患にも関わる 筋肉の衰えと全身の疾患の関連に関しては、近年、多くの論文が発表されています。代表的なものをあげると ・歩くスピードが遅くなるのは認知症の前兆である。 ・下肢の筋肉量が少ない人は糖尿病になりやすい。 ・筋肉量の少ない人はリンパ球も少ない傾向があり、風邪をひきやすい。 などなど。 こういうデータを見たら、たかが筋肉の衰えとは言えなくなると思います。
筋肉トレーニングの効果
トレーニングによって筋肉を鍛えるとどのような変化がおこるのでしょうか?当たり前のことですが、筋肉が衰えたときと全く逆の変化が起こります。もちろん、トレーニングの強さと量が適切であることが前提です。負荷が少なすぎたり、トレーニングをやり過ぎたりすると、決して望ましい変化は表れてきません。
それでは、適切なトレーニングによっておこる変化を具体的にみていきましょう。
① 疲労が回復する 多くの人は運動すると疲労すると思っているかもしれません。しかし、運動したあとに、むしろ身体が軽くなり、コリやつらさがなくなったという経験がある人は多いのではないでしょうか。そう、運動することにより、身体を修復するホルモンも分泌されるようになり、その結果、疲労回復につながるのです。
② 血流がよくなる 運動することによって筋肉が何度も収縮すると、筋肉内および筋肉周囲にある血管内の血流が良くなります。血流の滞りが解消されることにより、身体のすみずみの毛細血管まで十分な酸素が届けられ、全身の細胞がエネルギーを生み出す力が強まります。その結果、冷え症が改善し、むくみにくい身体に変化していきます。また、血流がよくなるのは手足だけに限りません。内臓の血流もよくなるので、内臓の働きも改善していきます。
③ 基礎代謝が高まる 筋肉が増えると基礎代謝が高まります。すると、肥満ぎみの方は余分な栄養を燃やす力が高まるため、やせやすい体質になります。一方、やせ過ぎの体質の方は身体を創るためのエネルギーを生む力が高まるため、適切な体重になるような体質に変化していきます。また、基礎代謝が高まると体温が上がってくるので、免疫力が高まり、風邪をひきにくい体質になります。
④ 身体のバランスが良くなる 筋肉をバランスよく鍛えることで、全身の骨格を支える力が高まります。すると、姿勢がよくなり、骨のゆがみもなくなってきます。普段から腰痛や膝痛に悩んでいる方は、その痛みが軽減していることに気付くでしょう。歩くときにも、歩幅が広くなる、歩くのが速くなる、躓きにくくなるなどの良い変化が現れてきます。
⑤ 全身の疾患の予防になる 以上に述べた変化の相乗効果で、さまざまな疾患の予防が可能と考えられます。予防可能と思われる疾患は、心臓病、脳卒中といった動脈硬化が原因となるもの、脳血流低下が原因と考えられる認知症、インスリンの働きが衰えると発症する糖尿病などでしょう。
⑥ 心の栄養になる 実際に身体におこる変化も確かに重要ですが、心に与える影響も無視できません。身体を動かすことが気晴らしやストレスの解消につながるという意味もありますし、身体の見栄えがよくなって、自信につながるという側面もあると思います。
どんな運動がよいのか?
それでは、どんな運動をするのが、最も効果的なのでしょうか?本来であれば、全身の筋肉をその人の現状に合わせたトレーニングメニューで鍛えることが理想です。ただ、そのためには専属のトレーナーが必要となり、現実的ではありません。 そもそも、あなたは一流のスポーツ選手を目指しているわけではありませんよね。一生、自力で歩ける状態で、ピンピンコロリの人生が目標のはずです。私自身の関心も、スポーツトレーナーを目指すというところにはなく、病気のある人でも、安全かつ効果的に運動するためにはどうしたらよいか、というところなのです。 そのような観点から、私がもし、どの人にも勧められるものを「ひとつだけ選べ」と言われたら、スクワットをお勧めします。その理由は、スクワットが股関節、膝関節、足関節など、同時に多くの関節を動かす複雑な動きで、多種多様な筋肉が連動して使われるからです。実際に動かしている下半身の筋肉はもちろんですが、上半身をぶれさせずに上下させるために体幹の筋肉も使われていま す。したがって、全身の筋肉をまんべんなく鍛えていくことができるのです。 また、スクワットは継続しやすいというメリットもあります。広いスペースは必要ありませんし、道具も特にいりません。動きが単純で覚えやすいうえに、負荷のかけ方も簡単に調節できます。また、回数もできる回数から始めればよいので、現状に応じた運動を自分自身のペースで行うことができるのです。
おわりに
平均寿命と健康寿命の差が、現在のデータでは男性で約9年、女性で約12年と言われています。つまり、これだけの年数を何らかの不自由を抱えて生きているわけです。 あなたは人生の晩年を不自由な生き方をしたいですか?答えは当然ノーですよね。筋肉を鍛えることの重要性を知った今、あなたがやるべきことはもうわかっています。さあ、今から筋肉トレーニングを始めましょう!
※この文章は2018年2月24日に開催された第5回湯川クリニック健康講座のために書き下ろした文章です。 |