院長コラム第1回
健康情報これホント? ~氾濫する医療・健康情報を見極める3つのポイント~ 2017年9月23日 健康情報を安易に信用してはいけない
世の中は数多くの健康情報で満ちあふれています。新聞、雑誌、テレビ、インターネット上でさまざまな情報を得ている方も多いと思います。その中には有意義な情報も含まれていますが、不適切な情報も多いのが現実です。
インターネットのまとめサイトに、「肩こりの人には、肩の上に幽霊が乗っている可能性がある」という情報があって、問題になったことがありましたね。冗談をまとめたサイトなら問題ありませんが、これが健康情報のサイトに載っていたら、信じてしまう方もいるかもしれません。
ひと昔前には、あるテレビ番組で「納豆ダイエット」の特集を組み、その中で不適切なデータが示されたということで、番組自体が終了するということもありました。番組の中で示されるのは、番組の構成に都合のいいデータのみということが多いのです。番組に登場する医師のコメントなども、すべてのコメントの中のほんの一部ということも多いそうです。
それでは、友人から得られる情報はどうでしょうか? 友人であれば、あなたのことを真剣に考えて、あなたのことをよくしてあげようと思って、アドバイスしてくれることでしょう。 その友人は、自分に何が起きていて、その状況を変えるために何をして、その結果がどうだったのかを知っています。
例えば、玄米菜食を試して花粉症の症状が消えた経験があれば、玄米菜食がどれほど効果的かというストーリーを頭の中で構成します。そして、相談者であるあなたにその話を語り、玄米菜食を勧めてくることでしょう。
しかし、それはその友人に起こったたった1つのデータに基づいた意見にすぎません。 その友人の花粉症に効果的であったからといって、あなたにとっても効果的であるとは限らないのです。あるいは、効果的でないばかりか、マイナスの影響がないともいえません。
もちろん、その友人が多くのことを勉強していて、数多くの食事法の中から玄米菜食を勧めたのであれば信頼性はかなり高いでしょうが、そのようなケースはあまり多くないと思います。
確証バイアスとは
人間がものごとを観察し、判断する際には、ある一定の偏りを示します。これを確証バイアスと呼びます。
人には、自分の先入観に基づいてものごとを観察し、自分に都合のいい情報だけを集めて、それにより自己の先入観を補強するという傾向があります。また、いったんある判断をしてしまうと、その後に得られた情報に対し、判断した内容に都合のいい解釈を与えてしまいます。
一方、自分が判断した内容に反する情報を見たときには、人は無視してしまうか、あるいは無意識に間違っている情報であると判断してしまう、ということがしばしばあります。
例えば、グルコサミンのサプリメントを飲んで、膝の痛みが軽くなった人がいるとしましょう。この人が、「グルコサミンは効果がない」という記事を読んだとしても信じないでしょうし、記事そのものが目に入らないかもしれません。
このように、人間の判断には常に一定の偏りが見られるのです。これは入ってくる情報の一つ一つすべてを事実確認しながら脳で処理していると、日常生活を行っているだけで脳の処理能力を越えてしまうからです。
日常のルーチンとなっていることがらには、脳のエネルギーをできるだけ使わずに済ませるためには、既にある判断基準をそのまま用いるという方法が理にかなっているのです。
間違った情報を信じ込まないために
個人の体験談は非常に限定的な情報で、医学的なエビデンス(証拠)としては最低のランクに位置付けられています。 1つの症状あるいは病気に対して、1つのことを試した、1人の体験に基づいた、たった1つの意見にすぎません。
また、ある程度の人数を集めて検証したデータについても、自分の判断に合致する情報のみを信じないようにしましょう。このようなデータも、データをとった方法や解釈によっては、誤った結論を導きだしているものもしばしばあるのです。
医師が論文を読むときに常に留意しているのは、その研究がどのような目的で、どのような方法論を用い、どういう推論で結論を出しているかということです。 つまり、誤った結論を導きだすような、誤った方法論を用いていないかを検証しながら読んでいるわけです。医学雑誌に掲載されるほどの論文にも、方法論が不適切な場合がときどきあります。
一般の方々にそこまで求めるのは難しいので、健康情報を見たり聞いたりしたときに、留意すべきポイントを3つにまとめてみました。
この3つのポイントに基づいて、常に検証しながら健康情報を解釈する習慣をつけてみて下さい。それにより、自分にとって、どういう方法がいいかを正しく判断することができるようになると思います。
氾濫する医療・健康情報を見極める3つのポイント
①どの程度の根拠をもっている情報かを確認する。
あなたの友人から聞く情報は、その友人の個人的体験に過ぎないのか、ある程度の根拠をもって言っているのかを確認して下さい。
雑誌やテレビの情報は、個人的な体験ではなく、ある程度の人数でデータをとって、その総括としての情報を伝えていることが多いと思います。ただし、ある一定の結論を導くために始めから都合のよいデータだけを並べたてたり、既に時代遅れになった情報を伝えていることも少なくありません。
インターネット上の情報は玉石混淆です。これらの真贋を見極めるには、相当の知識と判断能力が求められますが、根拠となっているものがきちんとした医学データなのか否かを確認する必要があります。
②どのような人を対象としている情報かを確認する。
玄米菜食で不調の人に「野菜をもっと食べなさい」というアドバイスは不適切であるし、肉食過剰で不調の人に「タンパク質をもっと摂りなさい」というアドバイスも不適切ですよね。これらは容易に理解できると思います。
しかし、残念ながら、それに近いアドバイス(自分でインターネットなどで調べた情報も同じ)を信じ込んでしまうことはしばしばあります。
その健康情報がどのような人を対象に言われたものかを考える習慣を身につけて下さい。
③実践してみて、どのような結果が出るかを確認する。
①と②のことを意識したとしても、なかなかわからないことが多いと思います。
多くの人が読むあるいは聞くことを前提としている情報には、その根拠となっているものが明示されていないことも多く、また、すべての人に有効であるかのように言われていることが多いからです。
もし、これだ!と思う情報がありましたら、まずは試してみて下さい。そして、自分の体験を詳しく記録してみて下さい。
あなた個人の体験は、あなたにとって有用な情報であったかどうかを検証するうえで、非常に重要な基礎データとなります。
ひとつの健康情報の有効性を評価するためには、最低でも3か月程度は必要です。 その間は他の情報源から得た知識を用いずに、ひとつの情報から得られたものに従って続けてみて下さい。
最後に、3つのポイントをもう一度まとめます。
① どの程度の根拠をもっている情報かを確認する。 ② どのような人を対象としている情報かを確認する。 ③ 実践してみて、どのような結果が出るかを確認する。 |
※この文章は2017年9月23日に開催された第一回湯川クリニック健康講座のために書き下ろした文章です。
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